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Tunaboni Collectionsの制作情報をお知らせいたします

# ツナボニコレクションズ(Tunaboni Collections)公式ブログ

# mariageマリアージュ-chu・chu-発売記念ショートストーリー

作品サイトはこちら

インタビュー形式のSSです。
激しいネタバレを含みますのでchu・chu本編をご視聴後にどうぞ!
marichuchu

「結婚2年目の人たち」
ここはテレビ番組の制作会社である。
あるバラエティ番組で「結婚して良かったこと・悪かったこと」をテーマに取り上げることが決まった。
インタビュア(以下IV)は街頭で、結婚している様々な年代のカップルを探し出し調査することになった。
以下は、快く取材に応じてくれた結婚2年目の2組の談話である。


(Sさんご夫婦)

IV:お互いに『この人ここが変わったなぁ』と思うことはありますか?

:んー?……特に変化は無いような気がしますが……あったかな
嫁:私も。それほど無いと思います
:……そうだ。嫁が主婦らしくなったなーと感じます
嫁:どきっ。どういうところ?
:こないだの雑貨屋がそうだったよ。店やスーパーで欲しい物のある場所を探しだすのが早くなった。何でああなった?
嫁:……え。なんでだろう……嗅覚?
:主婦の嗅覚が発達したってこと?
嫁:うん。そうかもしれない
(3人で爆笑する)

IV:お互いに直して欲しいところはありますか?

:なんだろう……無いかな。無いですね
嫁:私も無いです。じゃあ今までどおりでいいんだね。ウホホッ
:おいおい(笑)ここで言うかよ
嫁:あっ、うっかりしたっ、ここカットできますか?(慌てる)
IV:?……なんですか、それは?(今の何?)
:ああ、旧石器時代語で話すの我が家でブームなんです
IV:っ……え、旧石器……?なんておっしゃったんでしょうか
:嫁は「良かったー」って言ったと思います。合ってる?
嫁:(うなずく)
IV:……なるほどー(嫁おもしろい)

IV:結婚して良かったことは何ですか?

:……ええっと……数えきれないです
嫁:毎日が楽しいです
IV:そうなんですねぇ(具体的に!ぷりーーず!)

IV.これからのご夫婦の目標があればお聞かせください

:えー……嫁のおかげで今までやらなかったことにもチャレンジ出来てます。これからもそうできればいいかなと
嫁:主人は出張が多いので、健康面に気を配れればと思います
:ありがとうな。……そうだ。今週末からまた出張がある
嫁:そうなんだ?気をつけて行ってきてね
:うん。お土産をまた買ってくる
嫁:やったー(と動きかける)
:……踊り出すかと思った。カメラの前だからセーブしたの?
嫁:うん
:やっぱり(笑)

IV:(すごく楽しそう)……ご協力ありがとうございました!


(Vさんご夫妻)

IV:お互いに『この人ここが変わったなぁ』と思うことはありますか?

ティト:ノー。妻は交際当時から全然変わらないです
嫁:彼も変わってないですけど、『知りたいブーム』が変わってます。ちょっと前まで時代劇だったけど今は刑事ドラマだね
ティト:そうだね。駄菓子も今のブームのひとつかな
IV:いろいろな方面にご興味があると
嫁:知識欲のかたまりみたいな人なんです
ティト:僕、会社では日本オタクって呼ばれてる(笑)
(3人で爆笑する)

IV:お互いに直して欲しいところはありますか?

ティト:ワオ。(嫁に)言っていいの?
嫁:いいよ、大体わかる
ティト:キスをいつでも素直に受け入れて欲しい
嫁:(うなずく)
IV:そうなんですか?
嫁:キスの回数が多すぎて、未だにキスするタイミングが読めないというか……戸惑っちゃうんです
ティト:うん。僕もそれはわかっているけどやっぱり寂しく感じる
嫁:慣れるようにするね
ティト:シ。わかってるよ、モナムール。きみもあるでしょ?直して欲しいところ
嫁:あれかな。……予定どおりに動かなくてちょっと遅れがちな所
ティト:だよね……気をつけるようにする。きみを困らせたいわけじゃないんだ
嫁:お互い気をつけようね
IV:……いいですねぇ(『モナムール』に撃たれている)

IV:結婚して良かったことは何ですか?

ティト:良かったことは全部。きみは?
嫁:私も同じ
IV:ははは(みじかっ)

IV:これからのご夫婦の目標があればお聞かせください

ティト:そうですね。僕は国王であることが判明したので、王妃と共に国を栄えさせたいと思ってます
IV:えっ、国、ですか?(は?どゆこと?)
嫁:わかりにくくてすみません。最近ふざけてお互いのことを「王様」「王妃」と呼び合ったりするので
ティト:どうなるだろうね
嫁:ねー
IV:?えっと何を……
ティト:ノー。神様だけがご存じなんです、僕らもわからない

IV:あらー残念です(何だろうなぁ?)ご協力ありがとうございました!


(いくつかの取材が終わる)

IV:もうちょっと撮れ高いるよね。あと何組くらい必要かなぁ
カメラマン:なぁ、なんで「結婚して悪かったこと」を聞かねぇの?今回のテーマだろ
IV:良かったはともかく悪かったことは失礼すぎる。パートナーが傷つくじゃん。そっちは電話アンケートにしようってPに掛け合うわ
カメラマン:はーん……
IV:なんで?電話の方が本音が出やすいんだよ?
カメラマン:いや、そうじゃなくてさ。……イイコイイコ(IVの頭をなでる)
IV:ちょ、何すんのっ
カメラマン:イイコだから
IV:意味がわからんし。あっ、あの人たち結婚してるかな?ついてきて!(と駆け出す)
カメラマン:りょーかい(と後を追う)

(了)


マリアージュchu・chu発売になりました。楽しんでいただけましたら幸いです
(かしわ)

# 発売延期のお知らせとお詫び:CD「心をきみに奪われている」が発売延期となります

作品サイト  https://tunaboni.jp/kokoro/

       記

平素はご愛顧を賜り厚く御礼を申し上げます。

2020年6月24日(水)に発売を予定しておりました CD「心をきみに奪われている」は諸般の事情が重なったため、やむを得ず発売日を以下のように変更させて頂くこととなりました。
発売をお待ちいただいているお客様にはご迷惑をおかけいたしますことを深くお詫び申し上げます。


【変更前】2020 年 6 月 24 日(水)

【変更後】2020 年 9 月 25 日(金)

長らくお待ちいただくことになり誠に申し訳ありません。
お客様にご納得いただける製品を提供できるよう努めて参りますので、何卒ご理解くださいますよう重ねてお願い申し上げます。


合同会社ツナボニーティ駿河組
(Tunaboni Collections)

# ヴァン-私が愛したスパイ-ショート・ストーリー②

作品サイトはこちら
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van_face.jpg

トゥルーエンドのアフターストーリーです。
上坂元軍曹目線のお話になります。ネタバレを含みますのでご視聴後にどうぞ。
トラック6のちょっと前のエピソードも入っています。

「あの晩」


ヴァンの家を辞してバス停へと向かった。
庭で犬と戯れていたあの子が私の足取りを興味深そうに見つめていたので、声をかけるべきか迷った。
何歳くらいだろう。2歳に手が届くかどうかといったところか。
こうして間近に見ると目元以外の部分もあいつと似ていることがよくわかる。
懐かしさがこみあげてきた。

だが、なんと声をかければいいものか。
結局子どもなのに会釈をしてしまいキョトンとされる。朴念仁の自分が恨めしい。
しばらくじーっと私を眺めていたが、そのうち(変なおじさん)には興味を失ったらしく、再び犬に向かって小枝を投げ始めた。
転がるような笑い声を聞きながら歩きだす。

あの子には健やかに育って欲しい。
私が出来ることなら何でもすると言ったが、あの女性が自ら助けを求めるとも思えない。
こちらから声をかけていくべきだと思った。おかしなものだ。また心残りが増えてしまうとは。

バス停脇の山吹の黄色い花に小さなアリたちが群がっていた。
本当にのどかでいい場所だ。
バスの来る時間まで散策をしたいような気持ちになったが、無理をすればこの足が悲鳴を上げるだろう。
次の家に行くのが遅れては本末転倒になる。
諦めてベンチに座っていると、繰り返してきたひとつの思いがまた浮かんできた。
あいつを死に至らしめたのは私なのかもしれない、という思いがー


「あんたが俺の新しい飼い主すか」
諜報活動の指揮を取ることになり、最初に対面した時あいつが言った言葉は今でもよく覚えている。
「俺の条件は2つだけです。それさえ守ってくれればどんなことでもやります」
・仕事に取り掛かる前に報酬は前金でくれ。成功時には必ず上乗せしろ。
・軍資金(関係者への買収など潜入時に使うらしい)はケチらず渡せ

清々しいまでに金に執着するので思わず声を上げて笑ってしまった。
「?なんで笑うんすか?」
「いや、そんなに金が大事なのかと思って」
するとしごく真面目な顔になった。
「あたりまえでしょ」
すっと空気が冷えた。こいつは単なる間諜じゃない、何か信念を持っていると気づいた瞬間だった。

ヴァンは優秀だった。非情なまでに任務を遂行した。民間人を巻き込んでも平気だった。
「あれはやりすぎだ」とたしなめても「結果が全てっすよ」と言い放った。
「上坂さんは甘い。軍人に向いてねぇな」
と、私自身の本質を突かれて憤ったこともある。
だが、あいつを嫌いになることはなかった。

あの晩。
作戦会議と言いつつ中身はたわいない会話に終始した。
勿論、軍への造反の計画はあいつには話さなかった。
酔って軽口混じりで理想とは違う今の現実をこぼしていたに過ぎない。
だがあいつは悟ったのだ。
あの部隊で起きている問題の元凶が何なのか。
その存在がなくなれば物事が上手く回るだろうということを。

……ヴァン、教えてくれ。
私は何か匂わすようなことを言ったか?
なぁ、ヴァン。
おまえは何故察してしまったんだ?
何故、関係のないおまえがそれを実行しようと思ったんだ?

あの晩。
「ヴァン、いいか?日本人は本来礼節を重んじる民族である。駄目だ。今の日本人はみーんな駄目だ!」
酔ってそう繰り返す私を
「へぇ、自分が何国人かなんて考えたこともねぇな。あんた、どうでもいいことにこだわるんすね」
と、あいつはカラカラと笑い飛ばした。
その乾いた笑い方がシャクに触った。
「……そういうおまえは実は日本人だろう?本名は何ていう?」
「……絶対笑うから言わねぇ」
「笑うわけがない。親がつけてくれた大事な名前だろうに。一体誰が笑うんだ」
そう聞くと、少しためらったあとで小さな声で「ばんみつてる」と言った。
「へぇ。漢字は?」
「ひかるにかがやく。……笑っていいすよ。中身と真逆だしだいいち全然似合わねぇし」
「いい名前じゃないか。大事にしろよ、みつてるくん」
「……ちっ、言うんじゃなかった。さっさと忘れろ。ほら、その酒もう一杯くださいよ!」
「あははは」

あの晩、おまえは何を思っていたんだろう―


バスが土埃を上げながらやってきた。
のんびりとした足取りで農家の人たちが次々と降りてくる。
乗り込んだ席から窓の外を見ると、あの子を抱きかかえたあの女性が私を見て手を振っていた。
やさしげな笑顔とヴァンに似た笑顔が並んでこちらを見ている。
頭を下げて私も軽く手を振った。

走り出したバスの振動に身を委ねながら考えた。
次にここに来る時には、玩具や文房具をいろいろ用意しておこう。
朴念仁の自分が選ぶものだから気に入ってもらえるかどうか不安だが、空の上のあいつは「あんたらしいな」と笑い飛ばしてくれる気がする。
なぁヴァン、そうだろう?

(了)

自粛生活しんどいですね。早くこの事態が収束することを願っております。
こちらはお暇つぶしにでもお読みいただければ幸いです。
(かしわ)

# ホワイトデースペシャルSS「KIRA・KIRA_Vol.3流星編」

KIRA・KIRAシリーズ公式サイトはこちら
流星ブログSS

「Whiteday in Rose」

『倍返しとは、贈り物などを受領した際にそのお礼として、その倍額に相当する金品を贈答することである。
上記本来の意味から転じて『お礼参り』などと同様に、復讐の意味合いとして用いられることが多い』(コトバンクより)

うわぁ……なんて物騒な解説。
彼のことだから自分が言った『倍返しする』という言葉は絶対覚えてると思う。
バレンタインデーは彼のリクエストに従い………えーと、あのー……口移し……でチョコを食べさせるという羞恥プレイをさせられたことはまだ記憶に新しい。
(食べ物で遊んじゃいけません!)

そういうわけで朝からハラハラしていたわけだが、昼頃に「5時くらいから始めようか?」とラインが来た。
ふーむ。ホワイトデーとは始めるものなのか。
「何か必要なものがあるなら買っていくよ」と返すと
「俺への愛だけでいいよ」ときた。
……コレ、どんな顔して打ってるのよ(知ってる、涼しい顔だよ)

そういうわけで約束の時間に手ぶらで彼の部屋に赴いた。
「来たよ」
「いらっしゃい」
部屋を見渡してみたが特に怪しい仕掛けは見当たらず……普通にご飯を食べさせてくれるだけ、かな?
それだっていつもとても嬉しいけど。

「お腹空いてる?」
「?ううん、まだ5時だもの。そんなに空いてないよ」
「じゃ、早速風呂に入ってもらおうか」
「えっ」
「今日は、タカシロ・プレゼンツ・スペシャル・ホワイトデーだから」
「え、あの、意味がわかんない」
「まぁまぁ、いいからおいで」

バスルームに引っ張られていくと馥郁とした芳香が漂っていた。
その芳香は銀色に輝く1立方メートルほどの謎の物体から出ているものらしく。
「……あの……これは何……?」
「家庭用スチームサウナボックスだね。折りたためるヤツ」
「買ったの!?」
「うん、買った。俺は今までも『健康』にはかなり関心があった」
「……まぁ製薬会社にいたもんね」
「あなたと出逢ってからそこに『美容』が追加されたわけ。実は今日初めて使うんだ。……服を脱いでこのタオルを巻いて中に入ってみてよ」
「……ちょっ、私で実験したいだけなんじゃ……」
「失敬だな。いいから入りなよ」
理系男子~~~~!

結論から言うと案外悪くないものだった。仕込まれていたローズオイルの量もちょうどよくて、ふんわりとリラックスしてくる。
「汗かいてきたね。これ飲んでみて」
とグラスを手にして流星がやってきた。
「これは何ですか」
「スム―ジー。美味しくできてるよ」
作ったの?という言葉は飲み込んだ。流星だもの、自分で作るに決まってる。

「で、使い心地はどう?」
「……ごめん。悪くないんだけど……ひとりだと退屈……」
そう言うと、ハッとした顔になる。
「しまった。俺としたことが……歌でも歌ってやろうか?」
「……聞きたい気もするけど、絵づら的にシュールだから遠慮するよ」
「テレビかタブレットが必要だったな。今後はそうしよう」
そうして銀色ボックスからようやく(?)私は解放された。

シャワーを使い、部屋着(だぶだぶ)を借りてリビングに向かうと、予想どおりの光景が目の前に広がっていた。
「お料理でテーブルが見えない……」
「サウナで最大限にすきっ腹になってもらおうと思ったんだ。足りなかったら追加する」
「大丈夫、倍返しありがとう」
「食べ終わったら足つぼをやろうか?」
「いやいやいや、大丈夫だから。ホントにありがとう」

スパークリングワインを開けて乾杯。
毎回何かとからかわれているのは否めないのだが、着地点はいつもここになる。
仕事の話や世間話をしながらふたりで美味しいご飯を食べる。
この時間がとにかく幸せだ。

しばらくして酔いが回ってきたらしい流星がつぶやいた。
「……結局まだ同棲してくれないね。何が問題なの?」
……同棲の話はかなり以前に提案されていたのだけれど、実行には至っていない(★)
同棲をしたら否が応でも「その先の未来」を意識することになる。その覚悟を決める暇もない、という感じかな。
仕事が忙しすぎる。
でも仕事はすごく楽しい。面白い。
「あなたはそういう人だよね……だから惹かれたんだ」

流星は隣に座りなおして、私の頭を肩にもたせかけた。
「……俺はあなたをサポートしていく。あなたの背中が小さく丸まってる時は伸ばしてあげる」
うん。
「美味しいものを食べさせて元気な細胞を増やしてあげる」
うん。
「忘れないで。俺が側にいることを」
「忘れたこと無いよ?」
そーかな~と渋い顔をする。
「……『仕事とアタシ、どっちが大切なのっ、ムキーっ』てなっちゃう残念な女性の気持ちがわかってきた」
「絶対うそ」
「うん、嘘。どっちも大事なんでしょ。あなたはそれでいい……」

小さいキスが唇に落とされた。おや、と流星が驚いている。
「バラの香りがする」
「おかげさまで。全身匂うよ」
「シーツにもその香りを移してくれるんでしょ?」
「……まぁ……そうなるのかな」
「うわぁ……倍返しの倍返しをされるのか……」
「何それ(笑)」
「じゃあ、早速美味しくいただきます」

そうして、タカシロ・プレゼンツ・スペシャル・ホワイトデーはバラの香りで締めくくられた。


(了)


★公式通販特典SS「美味しい生活」より

※バレンタインデーでは断トツモテ男の流星でした。皆さまからの贈り物はスタッフやかしわさんと堪能いたしました。
また他キャラにもありがとうございました。そちらは機会を見計らって何かしらアップさせていただこうと思っております。
お心遣い誠にありがとうございました。

# 「ヴァン-私が愛したスパイ」ショート・ストーリー

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「おふとん」
(トラック1と2の間のお話)


連れてきちまったのはいいが、いざ家を目の前にすると自分でも躊躇した。
(……ガキなんか連れてきていいところじゃねぇよな)
思ったとおり、こいつも目を丸くしている。
「……ここがヴァンのおうち?」
「ああ、そうだ」

もともとは小間物屋の物置で、そこのせがれとつるんで悪さをしていた時にふたりでヤサとして使っていた。
当の小間物屋は商売を広げるとかで別の土地に親子で移り住んでいった。
ありゃあ多分、せがれを更生させようってことだろう。
そのまま俺を住まわせてくれたのは、母屋と店に不審者を近づけるな、というつもりらしい。
「番犬」扱いだが、俺が不審者の筆頭だってことは当のせがれがよく知っている。
案の定、金目のものは何一つ残していかなかった。

「ヴァン、いいシノギがあったら呼んでやるぜ」とニヤリと笑ったあいつの顔を思い出す。
そういえば、かれこれ一年くらい経つが何の音沙汰もない。
真面目に働いているか、俺のことを忘れたか、しくじって死んじまったか。そのどれかだろう。

小さな白い顔が俺を見上げている。
そうだった。こいつを一晩泊めるんだっけ。
「店の横にある公衆便所に行け。戻ったらそこの井戸から水を汲んでよく手を洗え。チフスが怖ぇからな」
そう言うと首を横に振る。便所に行きたくないらしい。
……こいつ、漏らしたりしねぇかな。
不安になったので抱きかかえて便所に無理やり押し込んだ。

「ヴァン、いるー?」
「いるぞ」
「……出た―」
「……そりゃよかったな」
……こんな酔狂、誰にも見られたくねぇぞ、おい!
待つ間、電信柱を見上げていたら、てっぺんに欠けた月がちょこんと載っていた。
辺りは夜の静寂。空気はしんと凍っている。

家に戻り引き戸を開けると、当然のことながら中は薄暗く、9歳のガキは足音も立てずにこわごわと入っていく。
その様子が用心深い猫みたいでなんだか笑えた。
明り取りのランプを点けると興味深そうに中をきょろきょろと見回していたが、その目の下にうっすらとクマができていた。
なるほど、お子様はおねむの時間だ。

「眠いんだろ?もう寝ろ」
「お風呂に入りたい」
【お】風呂か。さすが領事館だ。
「……ここにはねぇ。母屋の据え風呂をたまに借りるが、今から水汲みをしたくねぇし薪も勿体ねぇ。今日は風呂はナシだ」
すると、心底がっかりした顔になる。ちびでも女だな。
しょうがないので、流しの前につれていき柄杓を使って顔を洗わせた。
「じゃあ、もう寝るんだぞ」
「……私のおふとんは?」
【お】ふとん。また【お】がついてやがる。
「おまえさまの【お】布団などはございませんね。……俺の布団ならそこにあるのがそうだ」
「……使っていいの?」
「……しょうがねえだろ。使えよ」

うん、とうなずくや否や、ササッと素早く布団の中に潜り込む。
そうか。寒かったんだ。それで風呂に入りたかったのか。
そういえば、こいつはずっと寝間着のままだった。
……我慢強いのかな。
父親が亡くなったと聞いて驚いていたが、悲しんではいなかったし。

「……いや。ピンと来てねぇのかも」
「なあに?」
「なんでもねぇ。寝ちまえ」
父親がこの世から消えていることをよくわかっていないんだろう。
それどころか【死】そのものをわかっているのかどうか。
目の前で命の火が消えていく瞬間を、この歳のガキが幾度も経験したとは思えねぇ。
あのすぅぅっと背筋が冷えていくような感覚……いいや。
親の無残な死に様なんか知らねぇ方がいいに決まってら。
おまえ、見なくて良かったぞ。
悲しみも寂しさもずっと後でやってくる。おまえがもう少し物がわかるようになったらな。

しかし。
なんで俺はこいつを連れてきちまったんだろう。
火事見物していた大勢の中にまぎれこませて、置いてけぼりにすることもできたのに。
「……お巡りに会っちまったからだな。きっとそうだ」
「ヴァン?」
「なんでもねーよ。寝ろ」

巡査に会わず、あの場で置いてけぼりに成功したとして。
あんだけ人の数がいたんだ、親切なおばちゃんが「迷子だね」と、こいつを交番に届けるだろう。
すると、いろいろ調べたあげく、領事館に住んでいるガキだということがわかり……
領事館に忍び込んでいた俺の風体をこいつが巡査に喋り……うおっ、冗談じゃねぇぞ!?
放火をしたのは俺ってことにされちまうだろうが!!

「よし、さすが俺だ!連れてきて正解だった!」
「ヴァン、うるさい……」
「はぁ?」

いけ図々しいガキだ。我慢強いんじゃねぇ、図太いんだ。
「おらおら、どけ、俺の場所を空けろ」
ことさら乱暴に隣に潜り込むと、むーんと唇を尖らせるので、遠慮なくつまんでやる。
「ちっせぇ口。人形かよ」
からかわれたことに気をよくしたのか、にこにこと笑いかけてくる。

「一緒だとあったかいね」
「こんな布団でか?おまえは明日からふっかふかの【お】布団で眠れるんだぞ。いっそ羨ましいね」
「じゃあ、ヴァンも一緒に住もう」
「……住めねぇよ。俺みたいな男には縁がない場所だ」
「なんで?」
「……花街ってのはそういうところなの。もう寝ろ」

背を向けると、諦めたような小さなため息が聞こえた。
やがてそれは寝息に変わってしっとりと部屋の空気を潤していく。
ふと、自分の身体が背中越しに温もってきたことに気づいた。

【犬と子どもの体温は高い】
それを教えてくれたのは誰だっけ……?
古い記憶をたぐりよせたが思い出せそうもない。
それに一体どういうわけか、こいつの寝息はやけに耳に心地いい。
……あーあ。おかしな晩になったもんだぜ。


(了)


今朝方、予想DL数を上回ったと伺いまして、取り急ぎボツにしたプロットをSSにしてみましたが、いかがでしたでしょうか。
感謝の気持ちをこめて。
かしわ