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# 「mariage-マリアージュ-Vol.2樋口涼編」ショートストーリー

「mariage-マリアージュ-Vol.2樋口涼編(CVテトラポット登)」(2017年5月発売)のアフターショートストーリーです。
公式サイトはこちら
本編をご視聴後にどうぞ!

「ロマンチックの源流」

クライアントとの打ち合わせが思いの外早く終わってしまった。
込み入った案件だったので、勉強のために嫁を同席させていたのだが、担当者に『樋口さん、奥さん見せびらかしに来たの?』と冷やかされたのは参った。
……まぁ、完全には否定できなかったり。

平日の午後の繁華街。
「会社にまっすぐ戻ってもつまらんな。デパートを視察、そんでデパ地下でデリ買って家に直帰。ワインと一緒にやっつける。どうよ」
-朝作ってきたおかずがあります、勿体ないです
「おまえなー。たまには手を抜けよ」
歩きながら相談していた矢先にシネマコンプレックスのビルが見えてきた。
(映画デートという手もあるな)と思ったが、恋人時代同様に計画性が無いのはどんなもん?としばし迷った。
が、嫁の目が一枚の映画のポスターに釘付けなのを見て迷いが消える。

「これ、見よう」
-え、いいんですか?
「お好みど真ん中そうだし。いい感じで時間も合うみたいだし」
-涼さん、ミュージカル映画ですよ……?大丈夫?
「む?それはどういう意味かな?」
俺はおまえのひよこ口が見られればいいんだよ。
「アニメはガキの時にDVDで見た気がするんだけどイマイチ覚えてない。これ実写だろ?CGがカッコよさそう。見たい。見ようぜ」
『ホントに?』と不審げな嫁をビルの中に押し込んだ。

結論から言うと映画は俺自身も楽しめた。
パンフレットとサントラCDを嫁に買ってやり、そのまま帰途に着く。
嫁は道すがらいろいろと解説してくれた。
いわく、原作ではヒロインは一人っ子ではなく兄3人姉2人がいるということ。
お父さんは発明家ではなく商人であること。などなど。

-野獣の俳優さん、目が綺麗でしたね
電車の中、パンフをひろげながら嬉しそうに語る。
「本当にロマンチック好きだよな。何がきっかけ?」
俺の質問にうーん?と首をひねって考え込んだ。
-気がついたらそうでしたね……母の読み聞かせのせいかも
自分で読めるようになってからは原作にも手を出したとのこと。中には恐ろしい結末のお伽噺も多いらしい。

「聞いたことがあるな。グリム童話は特に残酷だとか」
-そうなんです……悪者への報復がひどい……ちょっと辛い
眉を曇らせ+悲しげに+首を横に振る。
ああ、マジで辛そう。可愛い。
『なんでこいつはこんなに表情が豊かなの?』と常々思っていたが、幼い頃の情操教育が行き届いていたせいかもしれない。
嫁のお母さんありがとう。
こんなに可愛くしてくれてありがとう。

家に着いて夕食を済ませリビングでくつろぐ。
「おいでー」
と召喚するのは例によって膝の上だ。
新しいソファは毎夜の2人分の加重に耐えられるのか?少し心配だ。
まだどこかほわほわ顔なのは、映画の余韻なのかもしれない。
なので、つついてみたくなった。
「ちなみにおまえが一番好きな童話って何?」
-う~ん……からかわれそうだから嫌だな
「いいから。言ってみ」
-嫌です
「……待てよ……たぶん……アレだ」

ドレスショップで散々悩んでたアレ。
『これは私の体型には似合わない……』と一度は立ち去り、他のものを見てはまた戻る、を繰り返していたマーメイドライン。
着るだけ着てみろ、と試着させたが俺は変には思わなかった。
ショップの人から『ピッタリにお直ししますよ』と一押しされても、らしくもなく即決を渋っていたのだが。
(ちなみにその後は『どれも全部似合うぞ!』と力説し『お願いだから黙ってて』と釘を刺されたので口を出せなくなった)
数日後、直されたドレスを試着しに行った嫁から『大丈夫かもです』とラインをもらい『良かったね』と返信した。

「……人魚姫だろ?」
-うっ!
図星だったらしい。みるみるうちに顔が赤くなる。
「人魚姫よ。おまえが私の命を助けてくれたのだね」
-涼さん、やめて、死にそう……
「なんだよ。こういうの大好きなくせに」
もういいから、とまた映画のパンフを読み始めた嫁の耳たぶは赤いままだ。
効果がありすぎるだろう。楽しいけど。

「それさ、王子に戻る前の野獣の姿もかっこいいと思う?」
俺の膝の上で身をよじり、うんうんと激しくうなずく嫁。
-むしろ野獣のままでいて欲しいんです!
「あー、女ってわっかんねぇな~!王子様がいいって言ったり野獣がいいって言ったり」
どうせならもう一押ししてやりたい。

「な」
とパンフを取り上げてテーブルに放る。
「俺、人間だけど、今から野獣になっちゃうかも」
そう囁いてぐいっと脇に手を入れ立ち上がらせる。
そして、そのまま「よいしょ」とかつぎ上げた。

俺を上から見下ろす嫁の困り顔をしばし堪能する。
やっぱり見飽きない。本当に。
-やじゅう、って……いつもよりやじゅう……?
「ガオー?野獣ナノデ、人間ノ言葉、ワカリマセーン」
美味しい獲物をしとめた俺は意気揚々と寝室へ向かった。

(了)
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# 「mariage-マリアージュ-Vol.1峯岸達己編」ショートストーリー

「mariage-マリアージュ-Vol.1峯岸達己編(cv切木Lee)」(2017年3月発売)のショートストーリーです。
ティザーサイトはこちら
本編の少し前のお話です。

「突発的なある日の出来事」

俺の婚約者は「たっちゃんはスケジュール管理がすごい」と言う。
職業柄、順調な進行を心がけるクセがついてしまったので多少の強迫観念があるのかもしれない。
(実際、旅行行程にはトラブルとハプニングがつきもの。それをどう切り抜けるかで添乗スキルを試されるわけである)

なので彼女は突発的な俺の行動にはあまり慣れていない。
只今の時刻は午後6時ジャスト。
彼女はまだ派遣先にいる時間だ。
その最寄り駅にいると知ったらびっくりするだろうか?
わくわくしながらラインを送る。

「仕事もう終わった?」
2分ほど待って既読が付く。
『終わったよ。今着替えてたところ』
「今駅にいるんだけど。待ってても大丈夫?」
『何かあったの?』
「ううん。ちょっと付き合って欲しいところがあるだけ」
ピロッと音を立て返信が来た。
トーク画面ではスタンプのスケート男子が【了解しました-】と華麗に滑っている。

家路を急ぐ人混みの中、彼女を待つ。
このひとりひとりに家があってみんなそこに帰るんだな、と当たり前のことを考えた。
ひとりの部屋に帰るのがしんどくなったのはいつからだったろう。
寝起きのままで出ていったベッドの布団が、帰宅後朝と同じ形で残っているのがやけにさみしいと思えた日があった。
彼女と正式に恋人同士になった頃のことだと思う。

攻略するのが大変だったので(なんせ恋人にするまで1年かかった)手に入れた時の喜びは、そんじょそこらの「彼氏ども」の比じゃなかったはず。
それで「絶対に手放したくない」→「嫁にしなきゃ」の流れができたんだろうな、などと自分を分析していると。
人の群れのはるか彼方で、最愛の人がポツンと点となって見えた。
俺はどんなに沢山の人がいても彼女を見つけ出す自信がある。

-待たせてごめんね!出掛けに電話がかかってきちゃって
婚約者が息を切らせて近づいてきた。
「いや、こっちが勝手に来たんだから。おまえが謝るのはおかしいよ」
(でもおまえのこういうところが大好き)
並んで歩きながら『どこに行くの?』『何の用事?』とも尋ねてこない。
これもおまえの特徴。詮索は一切しない。
信頼されてるよなぁと思わず背筋が伸びた。

オフィス街から繁華街に向かう。
「お腹空いてる?」
-……ううん。そうでもない
「今、一瞬、間(ま)があったぞ」
-残念なことに、わりといつでも空いてるんだよね、私って……
確かにそうだ。
「ご飯は用事を済ませてからでもいい?閉店時間が8時なんだ」
-いいよ
-?閉店時間……?あ。付き合って欲しいところの?
「おまえなぁ、反応おっそいよー」
つないだ手から笑う俺の震えが伝わったらしくぎゅぎゅぎゅと握り返してきた。

いわゆる商業地でも一等地と言われるビルの前で俺が立ち止まる。
「頼んでたものを取りに来たんだよ」
-そうなのね
「結婚指輪だよ」
ハッとした顔が次第にじわじわと嬉しそうにほぐれる。
笑いながらおまえの背を押してビル内に入った。



そして1時間後-
湯気の立つ蒸し器を開けるとそこにはぷるぷると震える小籠包が鎮座している。
何とかいう名前の魚は熱々のネギ油をかけられて香ばしい匂いを放っている。
だが、本場の中華を楽しめる評判の店に来たというのにこの人は。
ぼうっとした顔でずっと左手の薬指を見つめたままだ。
「食べなよ、冷めないうちに」
-うん
とうなずくものの右手の箸は止まっている。

「もしかして気に入らない?おまえ好みだと思ったんだけど」
-ううん、そんなことない。すごく気に入ってる
「よかった。刻印が完了したって連絡もらったからさ、早く取りにいきたかったわけ」
-そうか……
「まだ何か気になるの?」
-まさか付けて帰るとは思わなくて。それで驚いてるの
そりゃそうだよ。それが狙いだ。

「それでおまえはもう【売約済】ってことだからね」
-婚約指輪もあるのに?
「『こんな高いもの失くしたら大変』とか言って普段つけてくれないんだもの」
-そっか……それは失礼しました
おまえを見つめる俺の指にも同じ物が光っている。

気持ちが落ち着いたのかようやくおまえは箸を使い出した。
どうしようかな。
実は婚姻届も手元にあるんだ。
今晩一緒に記入しようと思っているけれど、それはこの食事が終わってから話した方がよさそうだ。
今日は俺の突発行動に驚いてばかりだろうし。

-魚、美味しいねぇ
「うん、すごく柔らかいな」
これはいつもと変わらない俺たちの会話。
こうやって変わらない習慣と新しい習慣をすり合わせながら2人の日々を作っていくのだろう。
もうすぐ俺たちの長い旅が始まる。
トラブルやハプニングもあるだろうがきっと何とかなる。
大丈夫、俺は旅程管理のプロフェッショナルなのだ。

(了)

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