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# 恋する編集者シリーズ完結記念。アフターストーリーその⑤「つよがり。」

恋する編集者シリーズ第5弾「つよがり。」(2016年1月発売)アフターショートストーリーです。
(本編をお聴きになってからどうぞ)





「知らない彼」
~~恋する編集者シリーズ第5弾「つよがり。」アフターSS


焼津の漁港に取材に来てお土産にマグロをいただいた。
同行のカメラマン松尾さんと分け合おうとしたが「俺、魚苦手なんだよね」と拒否される。
帰りの車の中で美紀彦に「マグロもらったけどお刺身食べる?」とラインをするが、中々既読がつかない。
当然だ。多忙な彼はプライベート用のスマホを見ている暇などないもの。

何度もスマホを確認していたせいで「連絡待ち? 彼氏?」と運転中の松尾さんにニヤニヤされる。
「違、」と言いかけ「……そうです」と応え直したら、「顔が真っ赤だ」とますますからかわれてしまった。

帰宅後シャワーを浴びてバスルームから出ると、テーブルの上のスマホのライトが点灯していた。
「食べる。今晩行く」との短いレスポンス。情報はこれだけ。
彼の来訪が何時になるのか読めないのはいつものことだ。
「待ってるね」と送り返す。

さてこうしてはいられない。
解凍方法の書かれた紙とにらめっこし、どうにか美味しそうに見えるようにマグロを切り分けた。
あとは何にしよう? 野菜の煮物かな。里芋があったはず。

煮物を仕上げてかき卵汁を作りかけた時にチャイムが鳴った。
「お、いい匂い。煮っころがし?」
ドアを後ろ手に閉めた美紀彦が「これ飲もう」と地酒を差し出してくる。
「マグロにはやっぱり日本酒だよな。女将さん、一本つけてくれよ」
笑いながら地酒を受け取り台所に立った。

二人で食べるには多すぎるかと思われた刺し身もあらかた片付いた。
「ご馳走さまでした。刺し身も美味かったけど煮っころがしが絶品だったな」
彼が満足そうにため息をつく。作ってよかった。
その後、お茶を飲みながら今日の取材の話をしていると、だんだん美紀彦が不機嫌になってきた。
……何が気に入らないのかな。

「美紀彦?」
「……松尾とおまえっていつもペアなの?」
「?……あそこの雑誌じゃわりと多い方かも」
「ふーん、そうなんだ」
器用に片眉だけを上げうろんげに私を見る。

「……ったく。今まで『松尾さんがどうしたこうした』って何度聞かされたことか。
我慢してたけど、もうこれも解禁でいいよな? そいつの話はもう、す、る、な」
と、人差し指で私の口をリズミカルに叩く。
「俺がヤキモチも焼かないような男だと思ってた? 認識不足だね」

「でも松尾さんとはそういうんじゃ」
押し倒され、弁解しかけた唇をいきなりふさがれた。
容赦なく口内をかき回す熱い舌。その熱さに酔ってしまう。
「聞かないよ」
そう言い捨てると、私の唇の端を軽く噛んだ。
彼の荒い息が耳元に降るだけで背筋を微弱な電流が走る。
首筋に落とされるキスに身体の力が抜ける。

「髪、いい匂いがする……シャワー浴びた?」
「……みき、ひこ、……もう、」
「わかってる。ほら、肩につかまれ」

抱きかかえられた、と思う間もなくベッドに落とされた。
「ひどい」
「ひどいのはどっち。ようやく恋人に戻った女から、他の男の話を聞かされる身にもなってみろよ」
ズボンのベルトを外してのしかかってくる。
「……怒ってるの?」
「んーわりとな」
すねてる。こんな彼を見るのは初めてだった。十年近くもそばに居てまだ知らない彼がいるなんて。

「今夜は寝かさないから。覚悟しとけ」
不敵な笑みで宣言し、私の服をはぎ取っていく。
……はい。覚悟、します。


(了)



おまけ※「つよがり。」で使用した回想シーン導入BGMのフルバージョンです(♪をクリック)
♪mikihiko.mp3
mikihiko.jpg


長らくお付き合いありがとうございました

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# 恋する編集者シリーズ完結記念。アフターストーリーその④「はつ恋。」

恋する編集者シリーズ第1弾「はつ恋。」(2015年8月発売)アフターショートストーリーです。
(本編をお聴きになってからどうぞ)


「ハッピー・ファニー・バースデー」
~恋する編集者シリーズ第1弾「はつ恋。」アフターSS



保との同棲生活を開始してから最初の私の誕生日が来た。
私の心に期するのは(ああ、また保とひとつ歳の差が離れた)という年上彼女としての切ない感慨だったのだが、
保自身は大層なはしゃぎようで「俺、好きな人の誕生日を一緒に祝ってあげるの初めてだ」
と手放しで喜んでくれた。

「今日は何もしないでいいからね? 家事の一切は俺に任せなさい」
たまたま日曜ということもあり、手持ち無沙汰なまま、食事の後片付けをしたり掃除をしたりする保を眺めている。
ふだんは帰宅の遅い保より家事負担は私の方が多いが、家事は嫌いではないしどうせやることだから、と言っている。
気にしなくていいのに保はこういう機会に挽回したいらしい。
ただ、一つだけ気がかりがあった。

さすがに下着まで洗濯させるのは気が咎めて「それはしなくても」と止めたのだが、
保は「やる」と言って聞かなかったのだ。
「大丈夫。ネットに入れて弱水流で洗ってる。問題ない。できる」
洗濯機の終了音が鳴り、洗いたての衣類を抱えて意気揚々と保はベランダに出ていった。

だがその後異変は起きた。
(……何故あんなにブラジャーを見つめているんだろう)
眉間にしわを寄せ、真剣そのものの表情で慎重にピンチにぶら下げている。

やがてベランダとの間仕切り戸を締めた保が
「ねぇ、ちょっと教えて」と言いながら近づいてきた。
「あのさ。干し方が悪いと型がくずれることってあるのかな。そのぅ~ブラジャーの」
あまり気にしてなかったこと。思わず首をひねる。

「そのせいでおっぱいの形が変わったりする?」
「いや、あなたのおっぱいがどんな形になっても、俺は大好きだから別にいいんだ、うん」
「でも、あなたが困るかなと思って。ちょっと干し方を確認してみて。あれだけ自信がない」
「……」
(それであんなに悩んでいたのね)

「どうしたの?」
うつむく私の顔を覗こうとするのを制して、彼の胸に飛び込む。
「……保はずっと保だね」
「うん?」
「ありがとう」

好きになってくれてありがとう。
待っていてくれてありがとう。
優しくしてくれてありがとう。
いくつものありがとうを眼差しにこめる。

保は少しの間目を瞠っていたが、やがて微笑みながら優しいキスを落としてくれた。
「俺にも言わせて。生まれてきてくれてありがとう」
唇ごしに震えて伝わる言葉が嬉しい。
両掌に頬を支えられたキスは次第に深くなり、息をするのも苦しくなった。
そして、彼の『いい?』というアイコンタクトにうなずいて寝室へ―

そんなこんなで夕飯は大変遅くなってしまったのだが。
テーブルに並んだのは保ががんばって作った「男のシーフードカレー」と「男のシーザーサラダ」でとても美味しかった。
(『男の』をつけるのが正式名称だそうだ)
その後は部屋の明かりを消してケーキのろうそくに火をつけた。

バースデーケーキの上でゆらめく炎と保が歌うバースデーソング。
歌い終わった保が言った。
「火、吹き消して。願いごとを考えてね」
私の願いごとはただひとつだけ。
『いつまでも保と一緒にいられますように』



(了)





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