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# 「私の小鳥-Weiβ(ヴァイス)-」 アフターショートストーリー

私の小鳥シリーズ「Weiβ(ヴァイス)」(2016年8月発売)のアフターショートストーリーです。
本編をお聞きになってからどうぞ。
ティザーサイトはこちら


「愛の形」
~私の小鳥-Weiβ(ヴァイス)-アフターSS


就寝前のひととき、鏡台の前でルドガーの髪を梳かすのは私の楽しみのひとつだ。
いつも無造作にしているのが気になって、手入れを申し出たところ快く了承してくれた。
光の当たり具合で、蜂蜜色にもプラチナブロンドにも変化する美しい長い髪。
こうして頭に触られるのが気持ちいいようで、くつろいでくれている。

今日は絵画学校で屋外での授業があったらしく、疲れたのかさっきから盛んにあくびをしている。
(そう言えば。最初に出逢った時もしどけない姿であくびをしていた)
思い出して笑みを浮かべていると、彼が私を見咎めた。
「こらこら、なに笑ってるのー」
「ううん、なんでもないの。……ねぇルドガー」
「ん?」
「この髪はいつから伸ばしているの?」
鏡越しに目を合わせていた彼が少し眉根をよせる。
「もしかして……毎晩こんなことするの面倒くさい?切った方がいいかな?」

まただ。彼はとてもよく気がつく。いつも先回りして考える。
自分から引くことで物事を穏便に済ませようとする彼が、我を通したのは一度だけ。
スペイン行きの船に乗ったあの日だけだ。
「いいえ切らないで。とても綺麗なんだもの……初めて見た時はなんて美しい人かと思った……」
おや、と目を見開いて、ルドガーはからかうように笑う。
「そうなの?知らなかったな。いい印象じゃなかったはずなのに」
「……ルドガーはお母さま似なのかしら」
ことさらにさりげなく尋ねた。

これは今まで踏み込まないようにしていた領域。
でも。ルドガーの芯の部分の影のようなものはきっとご両親に関係がある。
『ご両親の褥を覗いたことは?……私は何度も見たよ』
『父は私が隣のベッドにいるのに、母に嬌声を上げさせた』
あの話は本当にむごいと思った。
『こういうのはね、誰かに吐き出すだけで楽になるってもんです』
カールの言葉を思い出す。
心にためているものがあるなら……受け止めてあげたい。

後ろに立つ私の手を肩越しに取って、ルドガーが指をからませる。
「う~ん……顔立ちは母に似ているのかな。……でもこの金色の髪と青い瞳は父から譲られたものだよ」
「そうなのね」
少し逡巡した後、彼が話し始めた。
「……この髪はお城に入った頃……8歳頃から伸ばし始めた。母がそうしたがった。……間違いなく父の落とし胤だ、ということを周りに証明したかったみたい」
「………」
「いつも今みたいに母に髪を梳いてもらっていたのだけど。……そのたびに父への恨み言を聞かされた。何せ好色な人だから他にも女性がいるわけ。『城に戻るべきじゃなかった』ってよくこぼしてた……8年も経ってから戻ってこいって言われて、唯一の愛情を注がれると期待してたんだと思う」
「……お辛かったでしょうね」
「……本人も愛妾のひとりにすぎないんだけどね。……ははっ、だから私の髪を見るたび愚痴りたくなったんじゃない?」
と、茶目っ気を出して笑う。

『全部話して欲しい』の願いを彼の手をぎゅっと握ることで伝える。
そしてそれは叶えられた。
「でも……家来が私たちの部屋に来て『今夜は陛下がお渡りになる。そそうのないように』って伝令を寄越すとね、母は有頂天になって美しく装い始める。……それを見て私はすごく不思議に思った。『あんなに不平を言っていたのに』『また父上にベッドで虐められるのに』って」
ふうーとため息をついてじっと鏡に映る私を見る。
「……勿論今なら理解できるよ。ただ、あの当時は混乱したよね……」
「お母さまはお父さまを」
「うん……生きていた時も死んでからも評判の悪い父王だけれど。母は彼を愛していたんだ。きっととても深く」

私の手の甲に頬をすり寄せながら彼がつぶやく。
「愛にはいろんな形があるね。……この髪には母の父への愛憎がこもっている気がして……それでつい切るのをためらう……」
「ルドガー」
「あんな両親だけど、私は彼らのことが嫌いじゃないんだ……」
「私も。……あなたを産んでくださって感謝してる」
鏡の中の彼の青い瞳が一瞬揺らいだ。が、すぐにそれは光を宿した。
「……私が生まれたことには意味があったね。きみが望んでくれるから」

握り合っていた手が解かれ、そしてそれはそのまま彼の口元に。
薄い唇に触れた、と思う間もなく、赤い舌が覗き、ちろちろと私の指を舐めあげる。
鏡越しに私の様子を見ながら、やがて、彼は音を立ててそれをしゃぶり出す。
「ねぇ……私の……愛の形は……どう見える……?」
おいしいね、と行為の何かを思い出させるような意図的な舌遣いに、次第に立っているのも苦しくなる。

「ル、ドガー……」
私の腕をぐっと引き寄せ、身体を後ろにひねった彼が低く囁いた。
『きみの愛の形も見せてくれる?』
そして、意味深な青い目線を私とベッドに順に投げた。
私は少しかがんで、彼の唇に小さなキスを落とす。
よく気がつく恋人はそれだけで私の返事をわかってくれた。




(了)